経済学の現状ってどうなんだろう?
行動経済学の本を読んでから、そもそも経済学の現状ってどうなっているんだろう、というのが気になっている昨今なんだけど、
- 主流派と呼ばれるであろう経済学の本は、教科書的な入門書ぐらいしか見当たらない。
- 非主流派の本は、経済学のど素人が読むと「なるほどなぁ」と関心してしまうようなことが多い。
- じゃなきゃ、学問としての経済学とは違う「エコノミスト」なる人たちのジャーナリスティックな本ばかり。
という感じで、行動経済学なんていう非主流はから入ったものだから、主流派ってどんなかんじなんだろう、という興味はあるんだけど、適当な情報源や書籍が見当たらない...
で、非主流派の本がひとつ増えた(^^;
- 作者: 高安秀樹
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/09/18
- メディア: 新書
- 購入: 22人 クリック: 279回
- この商品を含むブログ (76件) を見る
筆者も冒頭で書いているのだけど、「経済物理学」という名称は実態とはずれている。「経済物理学」という言葉だけを見たら、物理学者が自分の知っている物理法則を無理やり経済活動の現象に当てはめて、「ほら、似てるでしょ」と言っている雰囲気がしちゃうけど、そうではなくて、30 年ほど前から研究され始めた「複雑系」と呼ばれるものがあって、「カオス」とか「フラクタクル」といった数学的な現象とコンピュータシミュレーションを武器に、それまで解析不可能だと言われていた「ミクロ的な挙動」が「マクロ的な現象」に、どう結びつくか、ということを対象としているんだけど、この技術を使って実際の経済現象を分析したのが「経済物理学」というもの。なので「物理学」というのは直接は関係ない。
10 年ぐらい前に「複雑系」の黎明期に関して書かれた分厚い本を読んだことがあって、そういう学問があることは知っていた。
- 作者: M.ミッチェルワールドロップ,M.Mitchell Waldrop,田中三彦,遠山峻征
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1996/06
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 20回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
この本の中で、黎明期のサンタフェ研究所のメンバーに経済学者も参加していたことが紹介されていて、その当時の主流経済学が「市場の安定」「需要と供給のバランス」ばかりで、不安定な状態の話題になると避けて通るような風潮に我慢できず、新しい手法を求めて「複雑系」という研究に入っていったことが紹介されている。
経済物理学は、まさにこの話の延長線上にある成果として誕生したもの。
この本で中心的に取り上げられているのが、外国為替市場の相場に対する分析で、世の中にある「市場」の中で、もっとも先進的で、規模も大きく、主流経済学が考える理想的な市場に近いはずなのだが、主流経済学が言うような「均衡状態」とはなってない。
これを経済物理学は、ディーラーの行動に単純なルールを設定してコンピュータシミュレーションをして、実際の外国為替市場での相場変動とそっくりな動きをすることを見せている。
私の初歩的で、断片的な知識からイメージする主流経済学は、
- 経済活動に参加するプレイヤーが合理的な行動をする「経済人」(ホモ・エコノミクス)であることを前提にしている。
- ミクロ経済での行動と、マクロ経済の現象を結びつける理論が希薄。
- 「時間」という概念が薄い。
というものである。
一番目の項目に対して出てきたのが「行動経済学」で、生身の人間の活動は「経済人」と、どれだけ違っているか、というのを明らかにしている。2番目の項目に対して、複雑系のテクニックを使えば説明出来る、として、研究が進んでいるのが「経済物理学」なのだろう。3番目に対しては、下手すると「経済学」の外の話なのかもしれない。
例えば、雇用問題で「雇用のミスマッチの解消」が問題の解決になる、と言われる。雇用の流動化が重要だと言う。池田信夫さんが経済学者としてどんなポジションの人かは知らないが、下記のサイトでそういった主張をされている。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/44a168f4f49944058f457302eef66e83
でも、ふと思う。「まるでロボットの世界みたい」
確かに、人手が余っている斜陽産業から、人手が足りない産業へ移行出来るようにするのは大切だと思う。でも、実際に働いているのは、「有限の時間」の生命を与えられた生身の人間である。年齢を重ねれば柔軟性も低下する。年老いる自分の親を放っておくことも出来ない。子供の学校や進学のこともある。経済的な側面だけでは解決できない様々な制約条件の中で日々の生活を送っている。
現在の正規雇用では雇用固定化が弊害となって、経済に悪影響を及ぼす。確かにその一面はあるだろう。昨今の雇用情勢で派遣社員が真っ先に切られていくのは、正社員を解雇しづらいため、ということはあるだろう。雇用調整をしなければいけない場面で、正社員も派遣社員もなく、一様に解雇されるリスクを負担するべきではないか、と個人的には思う。
だが、経済学者の言っていることで、事が解決するような気がしない。経済学者は最初から生身の人間を相手にしていないように思える。
単純なゲームの理論から導かれるような結論は、実際の経済活動と合致していのは当たり前で、さすがに、主流派の経済学者も、こんな単純な話ではないことは分かっているでしょう。たぶん、そういった素人の疑問に対して、「それはなんとかの法則というもので説明でき」といった説明をするのでしょう。でも、それは、経済学が前提とした「ロボット」を一所懸命、チューンアップしているだけのように思える。
現在の経済学が作り出した「ロボット」が、工業用ロボットなのか、ASIMO レベルなのか、鉄腕アトムなのかは分からない。果たして、ロボットの経済学は人間の経済を救えるのか...